展覧会に出品するということ
12月の初めに東京都美術館で開催された「第60回書心展」に、私も出品しました。会期中、何度も会場に足を運び、ずらりと並んだ作品を前にしてあらためて感じたのは、展覧会に出品するという経験は、通常のお稽古だけではなかなか得られない大きな学びがある、ということでした。今回は、これから展覧会に出品してみようかなと考えている方に向けて、少しお話ししてみたいと思います。
「展覧会に出品する」と聞くと、少しハードルが高く感じられるかもしれません。自分にはまだ早いとか、大きな作品を書き上げるなんてムリムリ!とか。少し興味があってもなかなか一歩を踏み出せない方もいらっしゃると思います。ですが、展覧会への出品は、上達してから挑戦するものというより、上達のためにこそできるだけ多く経験した方が良いと私は感じています。
まず、大きいサイズの紙に書くということは、半紙とは違い全身を使って書く感覚が必要になり、自然と練習の質も量も変わってきます。床に手をついて書くことは、腰や腕の筋肉を使うため、自分の身体への意識が高まります。また、筆・墨・硯・紙の文房四宝に加え、印鑑や印泥、墨池など、普段は使わない道具の知識も必要です。そして、大きな作品を最後まで書き上げたときの達成感は、何ものにも代えがたい貴重な経験になります。ここまでは、多くの方が想像しやすい展覧会へ出品するメリットかもしれません。
しかし、実際に出品してみると、それ以上に多くの気づきがあることに驚かされます。作品を仕上げる過程で、自分の字のクセや強みがはっきりと見えてくるのです。何気なく書いていた線の傾向や、無意識に力が入りやすい部分、逆に自分らしさとして評価される表現などが、はっきりと浮かび上がってきます。これは、半紙の作品を書いているだけでは、なかなか得られない発見です。実際に書き上げた後は、出品票の事務手続きに加え、作品を表装することなど、作品を完成させる以外の工程にも気を配る必要があります。
いよいよ展覧会で展示され、多くの人に自分の作品を見ていただくと、普段話すことのない方から、思いがけない感想や意見をいただくことがあります。褒め言葉だけでなく、率直な印象や疑問の声も含めて、それらはすべて自分の視野を広げてくれる貴重な材料です。これが、展覧会に出品する最大のメリットと言っても良いかもしれません。
作品を制作する過程では、苦しくなる瞬間が訪れることもあるでしょう。思うように書けず、迷い、立ち止まる時間は誰にでも必ず訪れます。ですが、その経験こそが書の学びを深めてくれます。特に、誰かに教える立場をめざす方にとっては、「思い通りに書けない時間」を自分自身が知っているということが、とても大きな意味を持ちます。
展覧会に出品するということは、そこに至るまでの過程すべてを含めて、自分の今の実力と向き合うことです。勇気のいる一歩ではありますが、その一歩が、確実に次の景色へと連れていってくれるはずです。
さあ、もうすぐ新しい年になります。来年のウィッシュリストのひとつに「展覧会への出品」を加えてみませんか。ぜひ、一緒にチャレンジしましょう。
0コメント