心をととのえる時間

先日、旅先で坐禅を体験しました。20分間の短い時間でしたが、いつもとは違う土地で、いつもとは違う空気の中で静かに座る時間はとても新鮮で、心が澄んでいくように感じられました。そのときに、坐禅には「調身(ちょうしん)・調息(ちょうそく)・調心(ちょうしん)」という三つの段階があるというお話を伺いました。


まずは「調身」。身体の形をととのえることです。

背筋を伸ばして顎を引き、足を組み(結跏趺坐または半跏趺坐)、体の中心軸を安定させます。左手は右手の上に置き、親指同士をそっと重ねて下腹に近づけ、肩の力を抜きます。目は半分だけ開け(半眼)、1メートルほど先に視線を落とします。


次に「調息」。呼吸をととのえることです。

鼻から吸って口から吐く呼吸を数回繰り返したあと、呼吸の数をゆっくりと数えます。途中で数が分からなくなったら、また一から数え直す。呼吸の数を数えることに意識を向けることで、息がおだやかにととのい、心もおのずと静まっていくのを感じました。


そして最後に「調心」。心をととのえることです。

身体と呼吸がととのえば、やがて心もおだやかにととのいます。心がととのえば、身体の状態も安定します。無理に何かを考えようとしたり、また考えを消そうとするのではなく、心を一つのことに留めて集中する。もし心が乱れたら、また繰り返しととのえていく。この繰り返しが大切だと教わりました。


書もまた、同じです。筆を持つ前に、まずは姿勢をととのえ、呼吸をととのえる。そして、ただ「書く」ことだけに意識を集中させます。 文字を書くことに意識を向けていると、頭の中にあふれるさまざまな思いや情報から少し距離をとることができ、心と脳がスッキリとクリアになるような気がします。


日々あわただしく過ぎていく時間の中で、ほんのひとときでも、何か一つのことに集中する時間を持つこと。それは、心をととのえるうえで欠かせない大切な時間だと、あらためて感じました。

柚墨庵 Yubokuan

字を書くことが好きになる。 自分で書く字を好きになる。 ふだんの暮らしを、書のある暮らしに。 杉並の小さな隠れ家で 書のレッスンをはじめてみませんか。