「ほんの少し」が変えるもの
まだ梅雨明け前だというのに、すでに真夏のような暑さが続いています。
そんな暑さの中でも、日々頑張っているボクシング。少し前から、うまくいかないと感じていたことがありました。それは、右足でのミドルキックの強さです。左足では思い切り力が入るのに、右足で蹴るとどうしても全力が出せない。ミドルキックの際は、蹴る足と同じ側の手を上から振り下ろすことで力を込められるのですが、右足で蹴るときにその動きがうまくできず、これが原因ではないかと思っていました。けれど、なかなか改善できなかったのです。そこで今日、思い切ってトレーナーさんに相談してみたところ、こんなアドバイスをしてくれました。
「踏み込む軸足を、ほんの少し外側に向けてみたらどうですか?」
えっ、そんな簡単なこと?と思ったのですが、これが驚くほど効果的だったのです!たったそれだけの変化で、腕の振り下ろしが楽になり、右足でもしっかり力を出せるようになったのです。
この体験から思い出したのが、やはり書道のことでした。作品を仕上げるときに、「この字の位置を、ほんの少し右へ寄せてみたらどうか」「この線を、ほんの少し太くしてみようか」と迷うことがあります。1ミリ、0.5ミリ――そのわずかな違いが、驚くほど作品の印象を変えるのです。この「ほんの少し」は、料理でいえば塩ひとつまみのようなもの。足りなければ味が決まらず、入れすぎれば台無しに。でも、ちょうどよいひとつまみが加わると、素材本来の魅力がにじみでてくるのです。
プロフェッショナルほど、小さな違和感をそのままにせず、「ほんの少し」の調整を丁寧に積み重ねていきます。そこに、繊細な美しさが宿ることを知っているからです。最初はその違いに気づけなくても、続けていくうちに「ほんの少し」の大切さが見えてきます。何かを続けるということは、「ほんの少し」の違いに気づけるようになることの楽しさを、自分の中に育てていくことなのかもしれません。
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