ひらがなの魅力

先日のお稽古で、一生懸命ひらがなを練習していた生徒さんが、ふと「ひらがなって、かわいいですね」とつぶやいたんです。 その言葉が、後からじんわりと心に残りました。これまで私は、ひらがなは「形が取りにくくて難しいもの」として、生徒さんと一緒に向き合ってきました。でもそのとき、「そうだった、ひらがなってかわいいんだ!」と、忘れていた気持ちを思い出させてもらった気がしたのです。


さて、ひらがなの誕生はいつ頃かご存知でしょうか。

日本には、もともと文字はありませんでした。中国から漢字が伝わってきたのは、弥生時代の終わりごろ、4世紀後半とされています。その時点で、すでに楷書や行書の形で伝来していたと考えられています。やがて、漢字を日本語に当てはめるかたちで使われるようになり、奈良時代には「万葉仮名(まんようがな)」という表記法が生まれました。これは、日本語の音に合わせて漢字を使ったもので、たとえば「か」という音ひとつに対しても、十数種類の漢字が使われていました。


その後、平安時代になると、漢字を崩した「草仮名(そうがな)」が使われるようになり、さらに簡略化されたものが「女手(おんなで)」となって、現在私たちが使う「ひらがな」になっていきました。ひらがなが生まれたことで、手紙や和歌などを書く女性たちが増え、そこから女流文学も盛んになっていきました。明治時代には文部省(現在の文部科学省)が50音のひらがなを一音一字に整理し、それ以外のものを「変体仮名(へんたいがな)」と呼ぶようになります。文字の形の変化には、その時代ごとの暮らしや文化が色濃く反映されているのだと、あらためて感じます。


千年を超える時の流れの中で、ゆっくりと形を変えながら生まれた「ひらがな」。私たちが何気なく使う一字一字には、歴史とともに人々の思いが込められています。やわらかく、どこか愛らしい形をしたひらがなに触れながら、これからも暮らしの中で書くことを楽しんでいきたいと思います。

柚墨庵 Yubokuan

字を書くことが好きになる。 自分で書く字を好きになる。 ふだんの暮らしを、書のある暮らしに。 杉並の小さな隠れ家で 書のレッスンをはじめてみませんか。