改行の「解」
今日、サントリーのお酒の広告で「改行位置」が話題になっていた記事を見かけて、気になって読んでみました。広告のキャッチコピーは「このすっきり、人生変わっちゃうかも。」というものですが、このように3行に段組みされています。
このすっきり、
人生変わっち
ゃうかも。
「ち」で改行して、3行目は「ゃ」で始まっている!改行位置を間違えちゃったの?とも捉えかねないチャレンジングな広告、ということで話題になっていたのでした。制作過程においては、議論を重ねた上であえてこの改行位置を選んだようですが、SNSでは賛否両論。それも含めての広告効果となったようです。
ふと考えると、日本では昔からこのような「途中で改行」を取り入れていました。上部に掲載している写真は、高野切第一種に掲載されている古今和歌集のはじめの和歌です。
としのうちにはるはきにけりひととせをこぞとやいはむとことしとやいはむ
(訳:新年になる前に春が来てしまったが、これは去年というべきか、今年というべきか。ー古今和歌集巻第一 春歌上1 在原元方ー)
この改行位置を見てみると、
としのうちにはるはきにけりひと
、(と)せをこぞとやいはむとことしとやいはむ
なんと、「ひととせ(一年)」の途中で区切って、しかも2行目の文頭は繰り返し記号で始めるという斬新さ。もちろん紙の下の余白が足りなかったから、「仕方なく」そうしたのかもしれませんが、「、」だけなら、文末に入れ込むことだってできたはず。これは、あえてこの位置で改行しているのでしょう。さらに、1行目文頭に書かれた「東(と)」との対比で、細く小さく書くことで、軽やかさを出しながら全体のバランスを取っているようにも思えます。この一枚の紙面の中で、墨の濃淡、太細、重厚感と儚さを巧みに操りながら美しさを追求する技に、本当に驚かされます。改行って奥深い!
「改行」に正解があるかどうかわかりませんが、今回のサントリーさんの広告は、もしかしたら日本人のDNAがなせる技だったのかも。今度の仮名作品の展覧会では、改行にこだわって鑑賞してみようとひそかに思っています。
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