明日はもっといいものを

スペイン、バルセロナの空にそびえるサグラダ・ファミリア。着工から144年が経つ今も、建築の途中です。


その設計者である、アントニ・ガウディ(Antoni Gaudí)の没後100年にあたる2026年6月、聖堂で最も高い主塔「イエスの塔」がついに完成の日を迎えると言われています。かつて、彼が建築の現場を去る際に、弟子たちにいつも掛けていた言葉があることを知りました。


「諸君、明日はもっといいものを作ろう」


ガウディ自身、この聖堂が自分の代では完成しないことを分かっていました。だからこそ彼は、より良い明日へと繋がる「今」を、実直に積み重ね続けました。一世紀を超えてもなお失われないその熱量は、この一言に凝縮されているように思います。


私が日々携わる書道は、ある意味で「正解のない問い」を繰り返すようなものです。今日の一枚は、どこか納得がいかない。何度も練習したのに、思うように筆が動かない。そんなふうに、もどかしさを抱えたまま練習を終えることがよくあります。


けれど今日という一日の練習に、決して無駄なものはありません。上手く書けなかった一枚も、思い通りに動かなかった筆先も、すべては「明日、もっといいもの」を生み出すための不可欠なプロセスです。今日、紙の上で試行錯誤した時間は、目には見えなくても、確実に指先や心の中に積み重なっています。


私が主宰する柚墨庵では、「最高の一枚」を仕上げることだけを目的にはしていません。墨を磨り、筆を運び、今の自分と対話する。そのひとときを終えて教室を後にするとき、「次はこんなふうに書いてみよう」という小さな意欲が芽生えること。それこそが、何よりの収穫だと考えています。


「明日は、もっといいものを」

この言葉は、決して自分を追い込むためのものではなく、今日の経験を糧にして、明日はさらに良いものを目指すための指針です。今日精一杯書いたその一枚が、明日の美しい線を書くための確かな土台になります。


さあ、明日はもっといいものを書きましょう。

柚墨庵 Yubokuan

字を書くことが好きになる。 自分で書く字を好きになる。 ふだんの暮らしを、書のある暮らしに。 杉並の小さな隠れ家で 書のレッスンをはじめてみませんか。