今日の書は、今日のわたし
現在放送中のNHKのドラマ『しあわせは食べて寝て待て』を、毎回楽しみに観ています。第4話で、編集者の青葉乙女と主人公の麦巻さとこが食事をするシーンがあり、その中で「ネガティヴ・ケイパビリティ」という言葉が出てきました。
“ネガティヴ・ケイパビリティ”とは、すぐには答えが出ないことに対して、不安や迷いを抱えたまま、それでもじっと待つ力。「決めつけずに、あいまいさの中にとどまる姿勢」とも言えるこの言葉は、イギリスの詩人ジョン・キーツによって語られた概念です。ドラマの中では「できない自分を認める能力」として紹介されていました。
“できないことや、答えのない状態に耐える力”。それは、自分を無理に変えようとせずに、今の「未完成なわたし」を一度受け入れることなのだと思います。この考え方は、書道の世界にもとてもよく似ていると感じました。「思ったように書けなかった」「手本のようにならない」「書けるような気がしない」。そんな言葉が生徒さんの口からこぼれるとき、その気持ちよくわかるなあ、私も同じだよ、と思うのです。
私たちは、何かを学ぶとき、すぐに「できる自分」になりたくなります。けれど、思い通りにいかない時間の中にも、実はとても大切な意味があるのだと思うのです。線がゆれても、墨がにじんでも、形がいびつでも、それが「いまの自分」の精いっぱい。そんな自分を責めることなく、ただ受け入れる。無理に直そうとせずに、今日は今日の私として紙に向き合う。その姿勢が、明日の変化へとつながっていくように思います。
“ネガティヴ・ケイパビリティ”は、「すぐに答えが出なくてもいいよ」と、自分にそっと言ってあげる力。できないままの自分を責める代わりに、優しく見つめる力。それがきっと、少しずつの上達と、長く続ける力を育ててくれるのだと思っています。
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